AIについてのブログを始めようとした時点で、避けては通れない話題が「生成AIの問題点」でした。
この問題はX(旧Twitter)などでは連日多くの議論を呼んでいますし、海外でも様々な訴訟問題にまで発展しています。
で、実際のところ。企業が生成AIを使うときに気を付けるべき事とかの記事はまあまあ良く見かけるんですが、私たち個人が生成AIを使うのって良いことなの?それとも良くないことなの?ってのがイマイチわからないんですよね…
いわゆる著作権侵害!クリエイターの搾取!っていう声はよく見かけるけど、でも使ってる人多いし…実際もう存在するサービスで、規制もされてないなら使ってもいいんじゃない?
でもなんかダメっていう人も多いしなぁ…
そんな感じでなんとなく宙ぶらりんなまま、生成AIそのものが「よくわからないもの」みたいになっているのが現状ではないでしょうか。
結局のところ、生成AIは使ってもいいの?
私自身も抱えるそんな疑問を少しでも解消するため、文化庁などの様々なレポートなどを読んでみました。
注意!
ここからの文章は、あくまで文化庁のレポート資料を読んだうえでの見解であり、私個人のAIに対する意見や思想を表したものではありません。
またこれらは著作権的にAIの生成物がどうみなされているのかを探るためのものであり、倫理的見解から書かれたものではないということについてもご留意ください。
文化庁は令和5年の6月に「AIと著作権」、令和6年の8月に「AIと著作権Ⅱ」というセミナーを開き、そのレポートを公開しています。
双方には重複する内容もあったので、今回はより最新の「AIと著作権Ⅱ」をもとに文化庁の見解を探ってみました。
そのレポート枚数は113枚!
いかに生成AIの問題が複雑かが伺い知れます。
その1 著作権法の基本的な考え方と著作物に関して
まず資料では「著作権法の基本的な考え方」について触れています。
これをはっきりさせないと前提がわかりませんからね。
著作権法は、著作物の「公正な利用に留意」しつつ、「著作者等の権利の保護」を図ることで、新たな創作活動を促し、「文化の発展に寄与すること」を目的としています。
そのため、著作権法では「著作者等の権利・利益を保護すること」 と、「著作物を円滑に利用できること」のバランスをとることが重 要と考えられており、各種の規定も、このような考え方に基づい て制度設計されています。
つまり著作権は、著作物を作った人だけではなく、それを利用する人のための法律でもあるということです。
これは意外と見落としがちな視点かもしれません。
では、そもそも著作権で守られる「著作物」とは何なのでしょうか?
著作権法は、「著作物」を保護するものです。
5 第2条第1項第1号(著作物) 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
ここはまあ想像する通りのものですね。
では、逆に著作物として認められないものは何でしょうか。
著作物でないものは、著作権法による保護の対象に含まれません。
例 単なる事実やデータ ありふれた表現 表現でないアイデア(作風・画風など) 工業製品
ここで、表現的でないアイデア(作風・画風など)が出てきました。
そう、X(旧Twitter)でよく言われる、作風や画風そのものは著作権で保護されていないのです。
これにはちゃんと理由があって、特定のアイデア…例えばイラストの描き方やキャラの特徴を保護対象にすると、特定の個人や企業しかそのアイデアを自由に使えないことになってしまいます。
点描はこの画家が発明したものだからほかの人は使っちゃダメ!とか
トラックに轢かれて異世界転生って展開は著作物だから使用禁止!とかにしてしまうと、自由な表現や捜索が阻害されてしまうという考え方ですね。
なるほどなるほど…理解はできます。
ただ、同一資料の最後にはこうも書かれています。
アイデアと表現の区別は、具体的事情に応じて判断されます(判断が難しいことも)。
う、ううん~…?
まあ一概には言えない…ってことですね多分…
ある程度のあいまいさは、こういう法律にも必要な部分なんでしょうけれど…
結局のところ、ケースバイケースで判断されますということなのでしょう。
まあ次に行きましょう。
次に著作者について。これはちょっと簡単にまとめます。
著作者とは、著作物を創作する人のこと。まあ要はクリエイターです。
で、著作者が作った著作物を利用する際には、著作権者から許諾を得ることが原則となっています。
これに違反すると差止請求や損害賠償請求などが可能になります。これが「著作権法違反」というわけですね。
ただし、例えばテレビ番組を家で楽しむためにダビングしたり、あるいは学校のイベントや市民コンサートでの演奏など、私的使用あるいは非営利・無料の場合は、例外として著作物の利用が認められる「権利制限規定」というものもあります。
さて!
長くなりましたがこれが著作権の概要です。
ここまでを理解したうえで、一番最初の疑問に戻りましょう。
ズバリ、「生成AIは著作権侵害なのか?」です。
その2 生成AIは著作権侵害なのか?
今回は、話がややっこしくなるのを避けるために、2つの場合について考えましょう。
まず、「生成AI自体が著作権に違反したものなのか?」
というAIを提供している会社法人に関して。
そして、
「生成AIを使って画像を作るのは著作権違反になるのか?」
という利用者目線のものです。
これは似て非なるものなので、両方について紐解いていきましょう。
まず「生成AI自体が著作権に違反したものなのか?」について。
生成AI自体が著作権に違反したものなのか?
そもそも生成AIがここまで騒がれる原因となった原因の一つに、AIが画像を作るプロセスがあります。
生成AIは0からイラストを生成するのではなく、様々な学習データを基にしてイラストを出力しています。
この学習データに、著作権で保護されている著作物が無許可で利用され、複製されているのです。
これは著作権侵害に当たるだろ!?というのが、よく言われる生成AIの問題点の1つです。
この問題を考えるときに大事になるのが、「著作権法第30条の4」です。
著作権法第30条の4では、情報解析等に伴い著作物を利用する 場合*のような著作物に表現された思想又は感情の享受を目的と しない利用行為(非享受目的で行われる利用行為)は、原則として 著作権者の許諾なく行うことが可能とされています。
(例)AIの学習データとして用いるために著作物を収集(複製)する場合等
とありますが、えーーっとつまりどういうこと?
まずこの「非享受目的で行われる利用行為」ってなんのこっちゃでしょう。
「享受」を目的とした行為とは、著作物の視聴等を通じて、視聴者 等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられ た行為をいいます。
著作権者が著作物から得ている経済的利益は、通常、「享受すること」、すなわちこうした知的・精神的欲求を満たすという効用を 得られることの対価として支払われるものであると考えられます。
この反面として、非享受目的で行われる著作物の利用行為につ いては、これを著作権者の許諾なく行えることとしても、著作権 者の経済的利益を通常害するものではないと考えられます。
そのため、非享受目的で行われる著作物の利用行為については、 原則として、著作権者の許諾は不要とされています。
………つまり…
AIに著作物を学習させる行為自体に、知的・精神的欲求を満たす効用はないから、許可を得ずに勝手にやっていいってこと!?
え、ええー…?そうなの?
それ大丈夫なの倫理的に…?
しかし実際に著作権法の抜粋を見てみると、第30条の4の二では
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他 の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一 項第二号において同じ。)の用に供する場合
こうした場合には、必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができるとされています。
つまりこれにのっとれば、AIに他人の著作物を学習させることは法律違反ではない!ということです。
ただし、この条文には続きがあります。
法第30条の4は、「享受を目的とする利用行為」や、「主たる目的は 非享受目的であるものの、これに加えて、享受する目的が併存して いるような場合」には適用されません。
なるほどなるほど…
いやだから「享受」ってなんだよ。
同条の「享受」目的の有無は、同条による権利制限の対象となる「当該著作物」 に表現された思想又は感情を享受する目的があるかどうかで判断されます。 例えば、AI生成物を鑑賞する目的があったとしても、そのことのみで、AI学習 に伴う複製について「享受」目的ありと判断されるものではありません。
…うん。
訳が分からん!!!!
ナニコレつまり、AI生成物を鑑賞するためにAIに他人の著作物を学習させても、それは「享受」目的ではないとされる事もあるってこと?
それはつまり、どんなに画風や作風が似ていても、基となった著作物とAIによる生成物は別物だからってこと?
多分だけどそういうことだよね?
も、もうちょい読んでみましょうか。
また、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」等も、法 第30条の4は適用されません(同条ただし書)。
はあ…
わっからねぇな文化庁!
つまりどういうのが合法でどういうのが違法なんだよ!!
学習データである著作物の類似物(創作的表現が共通したもの)を生成させることを目的としたAI学習*を行うための、学習データ(著作物)の収集
* (例)生成AIの基盤モデルに対する追加学習(ファインチューニング)のうち、 意図的に「過学習」させることを目的として行うもの等
* 生成・利用段階で、学習データである著作物の類似物が生成される事例があったとしても、それだけで 直ちに享受目的が併存していると評価されるものではありません。他方で、類似物の生成が著しく頻発するといった事情は、享受目的の存在を推認する上での一要素となります。
一部の検索拡張生成(RAG)等*で用いるための、生成AIへの入力用 データ(著作物)の収集
* RAG等のうち「既存の著作物の類似物(創作的表現が共通したもの)を 生成させること」を目的としたもの
いわく、これらの行為には享受目的があるとして、著作権法第30条の4は適用されないということのようです。
まーーーた難しい文章ですが、でも結局のところこれって…
「著作権が生成AIに適用されるかはケースバイケースであいまいですよ」
ってことじゃない?
あくまで個人の意見というか、この文章から感じられる所感だけど…
「過学習」の定義って何?
直ちに享受目的が併存していると評価されるものではありませんって、どういうときにはそう評価されるの?
なんだかいろんなところが意図的にボカされている気がします。
結論は書いてないのか結論は。
「特定のクリエイターの作品である少量の 著作物のみを学習データとしたAI学習」には、以下のように、法第30条の4が適用されない場合があると考えられます。
…あのごめんなさい、間違ってたらホントごめんなんだけど…
これって特定のクリエイターのみの作品を学習させて、その創作的表現を模倣させるのが目的なら、法律違反ってこと?
つまり複数のクリエイターの作品をごちゃまぜに学習させたなら、創作的表現もごちゃごちゃになるからオッケーってことになる!?
うーん一回まとめてみましょう。
- 作風や画風などはアイデアであって、著作権法では保護されない。
- AIに著作物を学習させる行為自体に、知的・精神的欲求を満たす効用はないから著作権者の許諾は不要。
- 特定のクリエイターの、少量の著作物のみを学習データとしてAIに学ばせる、あるいはそのために複製するのは享受目的が併存するので違法。(つまり複数のクリエイターを学習させれば適法?)
ここまでの感じでいうと、基本的に「画像生成AIは著作権法的にはグレーなところもあるけど、それ自体は違法とは言えないよ」といった感じに見えます。
生成AIを使って画像を作るのは著作権違反になるのか?
では、私たち一般人が生成AIを利用することはどうなんでしょうか?
これは違法になるんでしょうか?
最初に言ってしまうと、どうやら違法となる場合もあるようです。
しかも、AIの開発者や提供者はその責任を負わないこともあります。
資料の38Pにはこう書かれています。
AI生成物による著作権侵害の責任は、原則として、物理的に生成 AIを利用し生成を行った者(又はAI生成物を利用した者)が負う こととなりますが、一定の場合には、AI開発者やAI提供者が 著作権侵害の責任を負うこともあります。
この一定の場合というのは開発・提供しているAIがあまりにも高頻度で著作権侵害物を生成したり、あるいはそうした事態を把握しながら抑止措置をとっていない場合のことのようですが…
それはともかく、大事なのは前半部分の、著作権侵害の責任はAIを利用して生成を行ったものが負うという部分です。
生成AI自体の可否はともかくとして、生成AIを利用した場合には著作権侵害に問われる可能性がある!
これがまず大事な前提となります。
では、どういった場合に著作権侵害と認定されるのでしょうか?
AI生成物をSNS等にアップロードして公表したり、複製物を販売 したりする場合は、通常の著作権侵害と同様の基準で、侵害と なるか否かが判断されます。
すなわち、生成された画像等に既存の画像等(著作物)との 類似性(創作的表現が共通していること)及び依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)が認められ、かつ、権利制限規定の対象外である場合は、既存の著作物の著作権侵害となります。
つまり、画像生成AIで出されたものも、自分で描いたものも、どちらも著作権侵害か否かの判断基準は同じということですね。
ではまず類似性とは何でしょうか。資料では「創作的表現が共通していること」と書いてありますが、具体的にどんな場合を指すのでしょうか?
ここは弁護士法人 咲くやこの花法律事務所 様のWebページを拝見しましょう。
ここでは実際の判例を基に、類似性についてわかりやすく説明してくれています。
で、これを見てみると…
え、これアウトなの…?
肌色の人型が何かを持ち上げている絵や、切り分けられたスイカの画像などが著作権侵害に当たるとして紹介されていますが、逆によくある招き猫や博士をモチーフにした画像などは、著作権侵害じゃないセーフなものとされています。
これは…かなり判断が難しいのでは?ってのが正直な感想です。
ぶっちゃけ割とさじ加減一つというか、あいまいな基準にも見えてしまいます。
しかし文化庁の資料でも、類似性についての説明は割と簡素で、P34にちらっと書かれている程度です。うーん…
じゃあもう一つの判断基準の、依拠性ってなんでしょうか。
依拠とは、ある著作物を創作する際に、既に存在している著作物を視聴等し、それに基づいて創作することを指します。
つまり「ワンピース」という作品を見た人が、自分の創作で体がゴムのように伸びて麦わら帽子をかぶった海賊を出したら依拠があったと言えます。
しかしこの人が、「ワンピースって何?一度も見たことないです。」って言ってしまえば、依拠はなかったとされます。
…言ったもの勝ちじゃねぇか!
と思うでしょうが、実際にそうです。
依拠があったかなかったかは実証がとても難しく、これまで著作権を論じるうえでも類似性よりも重要視されていませんでした。
でもまあそりゃまあそうですよね、さっきのワンピースみたいな有名作品ならともかく、こんだけコンテンツがあふれた時代に、何かと全くかぶらないアイデアを出せと言われても難しいでしょう。
たまたま出したアイデアが、いやそれはどこどこの誰がちっこい地方紙で同じようなのを出していたからダメ…と言われても、知らんがなとしか言えません。
ですが、こと生成AIではこの依拠性が重要になってきます。
なぜなら、生成AIを使うときにはプロンプト(指示)が必要になるからです。
これこれこういうキャラを描いてほしい!とAIに命令するためのプロンプトですが、ここで生成者がimage to image…著作物の画像そのものをAIに指示として入力したり、あるいは既存の著作物のタイトルや作者名を文字での支持として入力したとします。
すると当然、AIは指示に従い、それらの著作物に似たものを出力します。
この場合、AI利用者は既存の著作物を認識していた、依拠性があったと認識されるのです。だって作品名とかを入力してますものね。それに似た物を出力しようとしたというのは自明です。
つまり結論として、
- 特定の作品や作者を表すものをAIにプロンプトとして入力し、(依拠性)
- 得られたAI生成物の創作的表現が共通していて(類似性)
- かつ私的使用や引用、あるいは無料・非営利目的でない(権利制限規定の対象外)
という場合は、著作権侵害に問われる可能性があるということです!
こっちはAIに学習させる場合に比べてわかりやすいですね。
資料ではこの後、AIの生成物は「著作物」として扱われるのかなどについて記されていますが、そこまで解説すると長くなるのでいったん切りましょう。
3 具体的な対策
ここまではAI生成物に関する著作権について、できるだけ詳しく見てきました。
じゃあ結局のところ、私たちができる生成AIを使う上で著作権侵害と認識されないための対策とは何でしょうか?
それは、プロンプトを入力する際に作家や作品の固有名詞や画像を入力しない事です。
そしてより注意するなら、生成したAIを公表しない、あるいは公表する際にどの生成AIを使用し、どのようなプロンプトでこの画像を出力したのかを明記することでしょう。
これを徹底すれば、生成AIが出力したものに依拠性がないとして、著作権侵害に問われる可能性は低くなります。
恐らく現状ではこれが最も、効果的な対策と言えるのではないでしょうか。
生成AIの問題点・リスクやデメリットについてのまとめ
まず、生成AI自体はグレーなところもあるものの、特定のクリエイターの創作的表現を模倣させるものでないのなら著作権侵害には当たらない場合が多い。
そして生成AIを利用する場合は、特定の作品や作者を表すものをAIにプロンプトとして入力し、なおかつ出てきた絵が元となった作品とほぼ一緒で、かつそれをSNSで公開したり販売した場合は著作権侵害となる。
これが今回、文化庁のセミナー資料を読んだうえでの見解になります。
私個人の見解を言うと、かなりX(旧Twitter)で言われているような画像生成AIに対する意見よりは緩めの規制のように感じます。
ただしこれはあくまで著作権的な問題からの話。
倫理的観点は除外していますし、そもそもこうした著作権関連法が今後生成AIを対象として改正される可能性も十分にあります。
あくまでこの記事を執筆した2024年12月現在の、私個人の見解としてご認識ください。
生成AIに関しては今後もできるだけ注視し、様々な情報をフラットに集めていこうと思っています。
皆様も生成AIを利用するときは、一度それが今回ご紹介した著作権侵害に当たらないか、ちょっとだけ気にしてみてくださいね。